編集部|
地球環境も私たち自身のライフスタイルもさまざまな意味で変化する現在、私たちが今、見直すべきことがあるとしたら、それは何でしょうか?
亀山|
私の個人的な考えではありますが、ズバリ「動物観」ではないかと思っています。「私たち人間は動物をどのように観るべきか?」を、未来の世界像を描くためにも根本から考え直すタイミングに立たされていると感じています。
編集部|
先生の専門分野は植物学だと理解していたので、ちょっと意外です。
亀山|
複雑多様な生物多様性の問題を考える糸口として、私は「ヒトと動物の関係学会」のなかに動物観研究会を置き、「動物観」の考察を深めています。
自然を保護するという考え方は私たちの自然観に基づいているように、「動物観」は“人が動物をどのように見ているかという見方や態度”であり、それが野生動物の保護や駆除の原点になっているのです。絶滅危惧種を保護するという考え方は近代以来の自然科学によって広まったものですし、殺生を禁じるのは仏教思想による動物観です。
例えば、哺乳類であるクジラの保護を訴える欧米諸国と日本の立場は論点が全く異なり、日本は2019年に国際捕鯨委員会(International Whaling Commission)を脱退しています。日本は、食習慣や食文化はそれぞれの地域の環境のもとで歴史的に形成されるものであり、日本はクジラが重要な食料資源であることを論点とし、肉も骨もヒゲまでも無駄なく活用していると説明し、欧米諸国は海洋動物・哺乳類であるクジラの生命の価値、生存権を論点としています。
これらの論点が全く異なり、合意困難となる議論が生じている背景には欧米人と日本人の「動物観」のギャップがあると私は考えています。
編集部|
農耕民族だった日本人と狩猟民族である欧米人には、動物へ寄せる感情に差があるというお考えなのですか?
亀山|
長年にわたって狩猟をする習慣を持つ欧米人は、自分の目で動物の死を見てきました。近年の動物研究で明らかになった事実に、動物たちが知能や知覚、固有の言語も持ち、自分の死に際し、恐怖や悲しみを感じていることなどが分かってくると、動物たちを人間の食用にするという考え方に距離を置く人々が増えてくるのは、大いに予想される潮流だと考えます。
編集部|
確かに、ベジタリアンから進化した「ヴィーガン」は卵や乳製品を含む動物性食品を口にしないだけでなく、動物由来の製品一般の使用も避け、動物たちの生命そのものを尊重したライフスタイルを選ぶ人たちです。
亀山|
ヒトの動物への見方が変わると、その捕食と被食の関係性も社会的な環境ポテンシャルも変わるはずです。近未来、私たちは動物に大きく依存する食生活やライフスタイルをやめるかもしれない。何れにしても地球に存在する豊かな自然を守り、人間と自然との新たな関係を構築するために行動していく必要があることだけは確かです。