~地球の声に耳を傾ける~
エコピープル

2026年早春号 Ecopeople 107松浦弥太郎さんインタビュー

1 バランスを保つということ

編集部
つい最近まで社会の多様性を推進する方向に動いて来ていた社会の空気がこのところ、一挙に変わり、白・黒の二択からそのいずれかを迫るように変化している状況に恐れすら感じます。SNSという匿名での発言の場が創出されたこともあり、自分の顔が出ないという場所からの言動が過激になっているようです。せっかちで、余白のない時代の状況をどのようにご覧になっていらっしゃいますか?

松浦
この状況にストレスを感じる人は多いでしょうね。
ただ、まずは何事においても、バランスを保つことが大切なのではないかと思います。
編集部
と言いますと、何に対してバランスを取ればいいのでしょうか?

松浦
社会全体、社会と自分の関係はもちろんですが、僕たちは何よりも自分の心の声を素直に聴き、自分自身のバランスをとることを優先する。即答することなく、何事も自分で考え、自分で答えを出すという姿勢です。
編集部
考えた結果、分からなかったら、どうすればいいのでしょう?

松浦
正直に「分からない」と返事をすればいいのです。さらに「分からないので、教えてください」と相手に言えば、それまで自分の力ではアクセス出来なかった情報や知識、関心の領域が広がることもあります。“何か”に自分を無理やり合わせていくのではなく、素直に自分に向き合えばいいのです。
編集部
禅問答のようですが、確かにおっしゃる通りですね。
まずは自分で考える。そして、答えが出れば、そう返事をする。
分からない時には、正直に「分からない」と答える。
非常にシンプルですが、そのように行動できれば、無用の騒ぎに巻き込まれることはありませんし、自分自身に無意味なストレスをかけることもありませんね。
松浦さんの穏やで、他者を認めて自立した人生観を支えるのは、この「自分で考える姿勢」にあると受け止めたのですが、人生への“この向き合い方”はいつ頃、芽生えたのですか?

松浦
高校を中退し、日本の学歴社会のいわゆる“常識”からドロップアウトしたことがきっかけでした。大人として、立派な社会人になるには、義務教育修了後には、然るべき大学に入学し、無事に卒業することが“社会の常道”のように思われていた時代でした。
僕はそこから、若さゆえの無謀さから後先のことなど全く考えずに飛び出してしまった。
当時はそれがどういう結果をもたらすのかを全く考えず、とにかく“やめるという決断”を最優先してしまったのです。
そこで初めて、ぽっかりと出現した真っ白な時間の中で、“自分は何をしたいのか?”を真剣に考えざるを得なかった。日本社会での“通常の路線”から外れてしまったからには、これからは、自分で考え、一歩ずつ歩いて行くしかない。そして、出した答えがアメリカに行くという選択でした。
編集部
単身のアメリカ渡米、怖くありませんでしたか?

松浦
もちろん怖かったです。当時の僕は、英語も話せなかったし、アメリカの自己責任型の社会そのものに、カルチャーショックを受けました。
毎朝起きると、今日の予定を自分で決め、自分の感覚で自分の居場所を見つけながらの旅先の日々で、僕が足繁く通った場所はアメリカの古書店を含む多くの本屋さんでした。
そんな日々を送ることで、僕は「自分は何がしたいのか?」、「どんな人生を生きたいのか?」をゆっくり、そしてはっきりと発見していったのです。
アメリカでの旅の時間を通して、僕は本、アートや写真が大好きで、丁寧で調和がとれた日常を大切にしたいということにはっきり気づきました。