『エチオピア Ethiopia』
ecogallery Vol.3 2023 Winter

  • 太古の激しい火山活動により、流動性の溶岩に厚く覆われたエチオピア高原は極めて平坦な地形である。そこにモンスーンがもたらす激しい雨が降ることで、無数の険しい谷が刻まれた。青ナイルが底を流れるナイル・ゴージでは、高原と谷底の高低差は1,000メートルに及び、その両岸では民族も言語も異なるという現象が見られる。実際、エチオピアほど多様な民族構成の国は滅多にない。グレート・リフト・バレー(アフリカ大地溝帯)の巨大な地殻変動によって形成された複雑な地形の中に、セム系、クシ系、ナイロート系などの80もの異なる言語を話す人々が住み、その生活圏は標高3,500メートルの極限高地から海面下120メートルの酷暑の砂漠にまで及ぶ。セム系の民族は、紅海対岸のイエメンとの交流の歴史の過程で進んだ混血と移住によるものと考えられる。
    エチオピアの宗教分布を大まか分類すると、北部から中部高原地帯はセム系のキリスト教圏、東部から南部の低地乾燥地帯はクシ系のイスラム教徒たちのテリトリーとなる。周囲をイスラム文化圏に囲まれている中、高原台地では古代ユダヤ教直系のキリスト教文化が脈々と継承されてきた。現在、両者の人口比はおおよそ半々。アディスアベバ等の都市では両者は混在しながらも、何百年にもわたり共存してきた。
    近年、ますます混迷を深めるアフリカにあって、エチオピアでは、宗教対立による深刻な抗争はほどんど起きていないが、一方で民族同士の激しい抗争と和解が長い歴史を刻んできた。

  • 標高2500mのエチオピア高原北部に広がる田園地帯
    アムハラ | 1982
  • 断崖に造られたアッバ・ヨハンニ教会
    ティグレ|1996
  • 十字の形に掘り抜かれた聖ギオルギス教会
    ラリベラ アムハラ|1997
  • 額ずいて祈る女性信者。背後の岩壁は、人類の始祖アダムの墓と言われる。
    ラリベラ|1997
  • 「祈りの姿」

    早朝なのか、それとも日没直後なのか? 人目を忍んで険しい岩屋に登り、あたりに誰もいないことを確認し、彼女は早々に祈り始める。浄めた白い綿布を纏っただけの彼女の体温を冷たい岩が瞬時に奪ってゆく。ただ、一心不乱に祈る彼女にとって岩の冷たさも硬さも全く感じていないはずだ。やっと辿り着いた束の間の祈りの時間、彼女にとってどれほど待ち焦がれた瞬間だったか…。
    世界各地に点在する山々は、人類誕生以来、常に祈りの場所を提供してきた。
    困難な道を乗り越えて巡礼することによって、人は神に近づいてきた。
    「山とは何か?」
    「祈りとは何か?」
    野町和嘉の写真に写った祈りの姿、ここには人間の弱さと強さが描かれている。

    キュレーター 太田菜穂子

  • 早朝の祈り。巡礼者たちは手編みの綿布、ガビを身にまとっている。
    ラリビラ|1982
  • アブナ・イマーク教会
    15世紀に描かれたと伝えられる天井画。円内の人物像は十二使徒のうちの8人とイエスの弟ヤコブ。
    ティグレ|2012
  • 蜜蝋ロウソクの明かりを頼りに聖書を読誦する、アブナ・イマーク教会の司祭たち。
    ティグレ|2012
  • デブラ・ダモ修道院の祈り
    ティグレ | 1996
  • ティムカット祭で教会から運び出されるタボット(モーゼが神から授かった石板を納めたアークのレプリカ)
    アクスム|2012
  • クリスマスを祝う司祭たちのダンス
    1990年頃、遺跡保護のために教会にはトタン屋根が設置された。
    ラリベラ アムハラ|1982
  • 燃料用の乾いた牛糞を集める姉妹
    デブレ・マルコス|1981
  • 夕刻、定期市から戻ってきた娘たち。
    ティグレ|2012
  • バオバオ樹の根方に集まった村の子どもたち。アフリカを代表する巨木は各地の民話にも登場する。
    ティグレ|2012