『モロッコ Morocco』
ecogallery Vol.4 2024 Spring

  • アフリカ大陸北西端に広がるモロッコ。国土の中央部に、サハラ砂漠と北部にひろがる地中海性気候の沃野を隔てる長大な障壁、アトラス山脈が東西に延びている。7世紀に始まるイスラーム教徒アラブ人の侵攻により、穀倉地帯の大半の地域がアラブ人の領域となり、あるいは長い年月をかけて先住民とのあいだに混血がすすんだことで、多様性に富んだ現在のモロッコ社会の主流となってきた。
    一方アトラス山脈をはじめとする山岳地域では、先住民であるベルベル人が伝統的な生活風習を守りながら独自の文化を現代に伝えてきた。ベルベルという呼び名は、ラテン語のバルバルス(外界の文明化されていない人間を指す)に由来するとされているが、先住民の間でも偏見もなく広く定着している。高地に暮らすベルベル語を話すベルベル人たちは、地域ごとに独自の文化を受け継いでいて、その特徴は多様性に富んだ女性たちの服飾文化に顕著にあらわれている。 そして外敵からの自衛のために、厳重な城壁を巡らせたカスバと呼ばれる城塞住居が営まれてきたことでも知られている。なかでも「アイト・ベン・ハドゥー」と呼ばれる巨大集落カスバは、世界遺産に指定され、伝統的な佇まいを現在に伝えている。

  • 山道を、市場から戻ってきた家族|1985
  • 羊を放牧する少女|1985
  • 祭りのために、革袋で牛乳を揺さぶってヨーグルトを作る|1986
  • ラバに乗り市場に行く農婦|2012
  • 「別れ」

    ラバに跨がり、こちらを振り返る彼女の人懐っこい眼差し、そしてその小さな手。
    葡萄色のニット帽を被り、モノトーンのジャケットに羽織った白と黒のストライプのマントというコーディネート、スタイリッシュなファッションセンスに思わず見惚れる。

    計算し尽くされたとしか言いようのない彼女の色彩感覚は、寒々しいモロッコの高地での別れのシーンを鮮烈な印象を与えるモード写真にまで引き上げた。
    絶妙なグレーのグラデーションを生み出す荒地をバックに立ち去る彼女、その抜群のファッションと生き生きとした笑顔に惹きつけられる。

    写真家の視線がいかに柔軟で、瞬時に、その美しさを最高の形で氷結させることを証明するような一枚だ。
    しかも、この瞬間に彼女が野町に投げかけただろうベルベル語の別れの言葉までが聞こえてくるよう...。
    写真は映像だけでなく、時には声までも写し取る。

    キュレーター 太田菜穂子

  • 毎週開かれる市場に来た老人|2012
  • 聖者を讃える集会での祈り|1986
  • 山間部でのコーラン学校の授業|1986
  • アトラス山中の村の少女たち。|1986
  • 谷筋を隔てるごとに異なる氏族の違いを、女性たちのケープのデザインで表現。|1985
  • 1985年にイミルシルで行われたこの儀式を最後に、消滅してしまった集団処女婚式で着飾った花嫁たち|1985
  • 結婚式での花嫁の化粧、ヘンナ。|1985
  • 街灯の下でくつろぐ村人:標高2200メートルの谷あいに広がる村、イミルシル一帯の景観と暮らし。|2012
  • 世界遺産アイト・ベン・ハドゥー|2018