アフリカ大陸北西端に広がるモロッコ。国土の中央部に、サハラ砂漠と北部にひろがる地中海性気候の沃野を隔てる長大な障壁、アトラス山脈が東西に延びている。7世紀に始まるイスラーム教徒アラブ人の侵攻により、穀倉地帯の大半の地域がアラブ人の領域となり、あるいは長い年月をかけて先住民とのあいだに混血がすすんだことで、多様性に富んだ現在のモロッコ社会の主流となってきた。
一方アトラス山脈をはじめとする山岳地域では、先住民であるベルベル人が伝統的な生活風習を守りながら独自の文化を現代に伝えてきた。ベルベルという呼び名は、ラテン語のバルバルス(外界の文明化されていない人間を指す)に由来するとされているが、先住民の間でも偏見もなく広く定着している。高地に暮らすベルベル語を話すベルベル人たちは、地域ごとに独自の文化を受け継いでいて、その特徴は多様性に富んだ女性たちの服飾文化に顕著にあらわれている。
そして外敵からの自衛のために、厳重な城壁を巡らせたカスバと呼ばれる城塞住居が営まれてきたことでも知られている。なかでも「アイト・ベン・ハドゥー」と呼ばれる巨大集落カスバは、世界遺産に指定され、伝統的な佇まいを現在に伝えている。