『眠る島』 瀬戸内海、手島の時間 by 公文健太郎
ecogallery Vol.1 2021 summer

  • Curated by 太田菜穂子

    Curator’s Comment

    700を数える島によって形成される瀬戸内海の美しさ、明治維新直後に日本を訪れたドイツ人地理学者、
    フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンもそのひとりでした。『シルクロード』の命名者でもある彼は、
    その著作『支那旅行日記』の中で、この内海の美しさに惜しみない賞賛を記しています。
    大西洋や太平洋など、広大な威容で私たちを圧倒する外洋の海の景観とは異なり、
    島々が連なることで醸し出される島影と穏やかな海の調和はまさに自然が創り出す典雅な絵巻。
    ただ、この海はそれぞれの島の独自の文化を守る境界であると同時に、
    視界におさまる距離にある本土と物理的に隔絶させる障壁になっていることも事実です。
    海を渡り、島に着く。島で過ごした数日間に写真家が見たもの、そして感じたことは、事実として写真に刻まれました。
    潮の香を含んだ風、薮と化した小径の野生植物の息吹、井戸底に淀む水、納戸に籠もった過去の匂い、
    その全てが私たちが忘れかけている大切な何かを思い出させてくれているようです。
    物事に距離を置くこと、過去を忘れること、それ自体は悪いことではありません。
    ただ、大切な記憶を宿した場所が永い眠りにつく前に、その精神を宿した写真を残したいと思うのは私だけではないはずです。

    There is one thing the photo must contain – the humanity of the moment.”
    – Robert Frank

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