~地球の声に耳を傾ける~
エコピープル

2021年夏号 Ecopeople 88『子どもたちに ほたるの舞う ふるさとをつくる』
“ほたるおじさん” 土本修二さんインタビュー

3 子どもたちにつなぐ

編集部
土本さんがほたるの育成を始めたのは2011年から。たったひとりで整えて、世話をされていると知り、驚きました。

土本
10年前、隣町の阿久比(あぐい)に、同じようにほたるを育てている先輩がいました。最初にその人に指導してもらい、あとはずっとひとりです。
ホタルを育てるには、餌を育てられなきゃいけない。それが大変なんです。知多半島は田んぼが多いですから、僕らの子どもの頃には、タニシやカワニナを餌にするヘイケボタルがいくらでもいたんです。けれど、1950年代に愛知用水ができてから、冬の田んぼから水が切れてしまい、餌が育たなくなりました。さらに農薬を使うようになって、貝などの生き物がみんな死んでしまい、ほたるもいなくなってしまった。
水があって、土手があって、草が生えている、そんな場所を見てまわりました。新美南吉記念館の庭にたどり着いて、これなら間違いない。タニシやカワニナが育てば、ホタルも飛ぶようになると確信を持ちました。
編集部
美しい水と土があり、タニシが育つ小川ができて、そしてほたるが戻ってきたのですね。今の時季は、毎日どんな風にお世話をなさっているのですか。

土本
朝は4時ごろ起きて準備して、夜は成虫になったほたるがいっぱい飛んでいるのをスプーンで掬いながら捕まえる。30の飼育箱から、それぞれ何匹出てきたのかを、チェックしてカレンダーにつけていくんです。昨日は180匹でした。大変なことですけれども、楽しくて仕方ないですね。

編集部
土本さんが始めたほたるの育成作業を、地元の半田農業高等学校で継承するという計画が進んでいるそうですね。ますますお忙しくなりますね。

土本
本当に忙しいです。けれど忙しいほど楽しいんですよね。農業高校からは、昨年申し出がありました。敷地が広く、稲なども作っていますから、環境がとてもいい。ゆくゆくはビオトープでのほたる育成を目指しているようで、そのための準備も行なっていると聞きます。ほたるをどこから育てるか、色々と意見がありましたが、一番難しいけれど最初から、つまり卵から育ててみなさいと伝えました。ようやく時季が来て、この6月に1万匹分の卵を差し上げたところです。高校3年生が中心となり、男女2名ずつの生徒4名で、ほたるが自然に飛べる場所を準備して、一から育てる。その指導をしてゆきたいと思っております。

編集部
子どもの時の思い出にあったほたるの飛ぶ風景。それが80歳の土本さんから、どんどん次の世代に伝わっていくのですね。自分の住んでいる場所に、美しくて可愛らしいほたるがいてくれることを、みんなが喜んでいる。それをこうやってご覧になられて、今、幸せなんですね。

土本
本当に幸せです。これから、半田だけでなく安城(あんじょう)、北名古屋などからも、育て方を教えて欲しいと希望があり、それぞれの土地でほたるが飛ぶようにと教えています。僕は、いろんなことを先生みたいにしゃべることはできません。ただ、ほたるおじさんとして、ほたるのことだけならなんとか話すことができます。それをだんだんと広めていきたいなあと思っております。ほたるのために一生懸命になっているおかげで、80歳を過ぎても、みんながびっくりするくらい元気です。知多半島をほたるでいっぱいにしたいというのが、僕の夢なんです。

取材日|2021年6月10日
取材場所|愛知県半田市