食材ラボ富山県の海の幸、山の幸

©︎ MUKAI Takashi

第六回『ホタルイカ』



富山で生まれ育った私が、春になると必ず恋しくなるのは、故郷のホタルイカです。

富山湾は、3,000m級の立山連峰と水深1,000mの深海が隣り合う世界でも稀有な地形。雪解け水が運ぶ山の栄養と清冽な海洋深層水が混じり合う「天然の生簀」とも言われ、その中で泳ぐホタルイカは、輝く肝が透けて、凛とした美しさをまとっています。

©(公社)とやま観光推進機構
















普段は深海に生息するホタルイカですが、産卵期を迎える春、肝をたっぷり蓄えたタイミングで富山湾にやってきます。実は富山で水揚げされるものは、ほぼ100%がメス。口に含んだ瞬間にはじける濃厚な甘みは富山産ならでは。けれど、その美味しさは「鮮度」だけで語り尽くせるものではありません。

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深夜2時、漁師たちは静かに出港します。持続可能な漁法である定置網でホタルイカを獲り、小さな魚体を傷つけないよう、タモで少しずつ丁寧に掬い上げる。獲る瞬間からすでに、どうすれば一番おいしい状態で届けられるか、という配慮が始まっています。
水揚げ後も、その緊張感は途切れません。船上での選別、港での再選別、そして加工場でもう一度。三度の目を通り抜けたものだけが商品となるのです。1尾づつ、わずかな傷や潰れも見逃さないこの徹底ぶりが、美しさと味わいを守っています。

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そして産地として名高い滑川市の加工場では、ホタルイカが潰れないよう小さなかごで静かに茹で上げ、すぐに冷水でやさしくゆすり洗い、雑味を取り除く。この繊細な作業が、肝の甘みをよりいっそう引き出し、澄んだ後味へと導くのです。

さらに心を打つのは、海と陸の共生です。旬の時期に合わせ、海が濁らないよう田植えの時期を調整する農家の方々。水産業に携わる人だけでなく、地域全体でこの恵みを守り、誇りを繋いでこの味を支えているのです。

青く光る神秘的な姿が注目されがちですが、一つひとつの営みが重なり合ってこそ、その土地でしか生まれない味わいが育まれ、唯一無二の価値になっていく富山のホタルイカ。
ぜひ一度、産地でその物語を味わってみてください。

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