食材ラボ富山県の海の幸、山の幸

©︎ MUKAI Takashi

第二回『清流素麺』



富山の秘境と言われる利賀村(とがむら)は、美しい山なみに渓流が縦断する自然豊かな場所。四季折々の鮮やかな風景は土地の生命力を感じさせ、冬の雪に覆われた静かな村も、水墨画のような息を呑む美しさです。この雪深さが清浄で豊富な水を生み出し、旬の恵みの源となるのですから、食と気候風土の密接な関係を思わずにはいられません。

そんな利賀村でつくられているのが清流手延べ素麺。
極細でありながら、強いコシとしなやかさを両立させた喉越しの良さが特徴で、百瀬川の清流の水を使用したことから、清流素麺と名付けられました。

利賀村を初めて訪れた時に印象的だったのは、村の人たちがみんな底抜けに明るく、お年寄りが抜群に元気なこと。雪国に抱いていた私のイメージは覆り、あっという間に魅了されました。足繁く村に通ううち、厳しい自然と対峙してきたからこそ真の強さとやさしさが備わって人を惹きつけるのだな、と思うようになりました。

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麺づくりは、ゆっくり時間をかけて低温乾燥させる独自の手延べ製法を守るため、早朝4時から始まることに驚きましたが、それ以上に感銘を受けたのは、長い麺を手まり型にまとめるときの手の表情。美味しくなぁれ、とおまじないをかけているような丁寧な所作に、唯一無二の美味しさの秘密を垣間見たような気がしました。

清流素麺を手にすると、思い出すのは村の人たちのまっすぐな瞳です。だから清流素麺を食べる時は、つゆも丁寧につくりたくなります。
富山定番の昆布と椎茸を効かせた鰹出汁にキンキンに冷やした麺をくぐらせれば、味わい深くどこまでも清らかで、身体に染み渡り癒してくれる。あぁ、極楽。

ふいに川遊びをした百瀬川がキラキラ光っていたこと、そして真夏なのに足先が痛くなるくらい水が冷たかったことを思い出し、食が生まれた場所を知っている人は、美味しさを少しだけ深く味わえるのかもしれない、と思ったのでした。










清流素麺

南砺市の秘境の地ともいわれる利賀(とが)地区の標高は、約700m。清流素麺は、県内でも有数の豪雪地帯で40年ほど前から製造が始まった。冬の寒冷な気候、昼夜の寒暖の差と適切な湿気、そして素麺づくりに欠かせない条件である百瀬川の美味しい水が、「手延素麺の至高の逸品」を生み出したと評される。

地区の9割を森林が占める豊かな自然環境に加え、作り手たちが手間を惜しまずかけることで、「喉越しの良さ」「歯ごたえ」「茹で伸びしにくい」3拍子揃った素麺に。練り上げた生地を麺線に加工し、「小引きハシ分け」で麺を引き延ばし、ハタにかけた麺は2本の割棒で生地をさばきながら離し、細く細く伸ばし、4日間かけてゆっくり乾燥させる。この工程によって極細麺ならではの喉越しの良さと、歯ごたえのある食感が生み出される。半乾きの長い麺は、職人の手で一つずつ、清流素麵の特徴である「手まり型」にまとめ上げる。茹でる際には食べやすい大きさに割って鍋に入れられることも特徴の一つ。