食材ラボ富山県の海の幸、山の幸

©︎ MUKAI Takashi

第三回『昆布』



日本の食文化を語るとき、欠かせない食材のひとつが昆布です。和食の基本である出汁のうまみを生み出す要として、古くから私たちの食卓を支えてきました。

実は富山県は、昆布とのつながりがとても深い土地。昆布の消費量・消費額ともに全国トップクラスを誇ります。出汁はもちろん、昆布かまぼこやサス(カジキマグロ)の昆布〆、ごはんやおむすびには海苔ではなく黒とろろ昆布をまぶしたり、お餅やパンには刻んだ昆布を練り込むなど、日常の食卓に昆布料理があたりまえのように並びます。

昆布の産地ではない富山が、なぜこれほどまで昆布文化と結びついたのでしょうか。そのルーツは江戸時代にさかのぼります。北海道で採れた昆布は北前船によって各地へ運ばれ、富山湾はその主要な寄港地のひとつでした。さらに明治時代には、北海道の知床・羅臼周辺に富山から多くの人々が開拓民として移り住み、故郷の家族や親戚に昆布を送り続けたことが、食文化としての定着につながりました。

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こうした歴史から、富山では今もなお羅臼昆布を好みます。以前、富山の昆布蔵を訪れたときのこと。羅臼昆布は仕上がりをイメージして、太陽や夜露に当てて熟成させるなど、他の昆布に比べて製造工程が多いため、深い旨みと香りが生まれるのだと教わりました。同じ産地でも、誰がつくるかによって質が大きく変わる。美味しい昆布は、自然の恵みを活かす人の技と、それを見極める確かな目があってこそなのだと、心に響きました。

昆布は、水に浸けておくだけで極上の出汁がとれます。火を使わず、特別な技術もいらない、もしかすると、世界で一番手軽な出汁かもしれません。

そして今、食の仕事に携わる私の味覚を育ててくれたのは幼い頃から出汁を始め、昆布料理に親しんできたおかげかもしれない。そう思うと、昆布とともに育った故郷、富山に温かな感謝の気持ちが静かに湧いてきます。