食材ラボ

 

2024年秋号茶の味

ナビゲーター | 今泉勝仁

茶人

1988年愛知県生まれ。
「茶と」、「Through the tea」主宰。
「櫻井焙茶研究所」、「OGATA Paris」を経て2024年より独立。
フランス・パリを拠点に国内外で茶、日本文化の普及に努める。

第四回『音』



以前、ダイアログインザダークという一筋の光もない空間を、視覚障害者の方の案内のもと対話をしながら様々な体験をするアクティビティに参加したことがある。

完全な真っ暗闇の中でかけられた「大丈夫ですよ、こちらです。」と落ち着いた案内人の言葉は、その後の体験を大きく変えてくれた。

パリのシャンゼリゼ劇場で辻井伸行さんのピアノ演奏を聴きに行った時、そのはじまりの一音の優しさに心を奪われた。

目を瞑り、確かめるように、大切に大切に始められたその一音は、その後のどの音よりも僕の心に響いた。

静けさの中に、光をみる。

クラヴィコード奏者の内田輝さんとの茶会後に記した言葉。「大勢の人々に届けるためではなく、そばにいる数人の方々に届くようこの楽器は作られています。」と話されていた通りに、ちいさく、儚く、蝋燭の灯りとともに揺れて届く音は秋の夜に寄り添う音でした。

少し暗い空間の中、一客一亭の時間。

急須から湯呑みに注がれる雫を見守る。

雫が落ちると共に波紋が広がり、そして磁器特有のキンと高い音が流れる。

波紋は一度縁にあたり、また中央へ集まっていく。音と共に波も小さくなっていく。

夏の終わり、かき氷が大好きだった内田繁先生が、階下にやってくる。「おぅ、あれをくれ。」と手を挙げ笑みを浮かべながら頼んでくれる。シャリシャリと嬉しそうに氷を食べる先生の姿は今もよく思い出す。

あなたの大切な一音は、どんな音だろう。