

〜命をいただく〜エコキッチン
料理人|醸造家
1981年遠野市生まれ。
江戸時代から続く武士の家系に生まれ、100年余り続いてきた民宿「とおの」を4代目として継ぐ。料理の基礎を父から学んだ後、独学で料理を極める。その傍らでどぶろく造りを始め、10年以上の試行錯誤を経て、一般的な「どぶろく」とは異なるエレガントな味わいを生み出すことに成功。
2017年には、スペインの世界的レストラン「ムガリッツ」にてどぶろくを使ったコースが新設されるなど、世界へ向けた道を歩み始めている。また、どぶろくを中心とした発酵食を深める過程で熟成の技術も身につけ、干肉やサラミ、チーズ、酢など、ありとあらゆる発酵食を自ら作り出せるようになった。2011年9月から民宿の隣に「とおの屋 要」をオープンし、ゆったりとした時が流れるレストラン、1日1組限定のオーベルジュを構えている。
写真|奥山 淳志 OKUYAMA Atsushi
4月頭、桜の蕾がぷくりとしてくる頃をみて、今年の稲作もまた始まるなと心がソワソワし始める。中頃に咲き始めた今年の桜は、あっと言う間に葉桜になった。
誰が言ったかはわからないが、本州で桜の開花が1番遅いと言われていた遠野。
そう、遠野の春は短い。
5年前に比べ、畑の桜の開花は1か月程早くなっている。人間が壊し続けた自然環境。自然の摂理は人間によって無秩序になったと感じる出来事を目の当たりにする。それでもこの地球上で、壊れた自然を蘇らせる事が出来る生き物も人間しかいない。
強い季節風が止む事がなかった今年の春。余計に春の短さを感じた年だ。
4月末から5月頭でも、最低気温は0度や2度なんていうのは当たり前。日中の最高気温は20度、23度という日もある。この寒暖差を身体で感じ始めるこの一時に、内に秘めていた動物の本能というか、本質に迫るようなエゴが出てくる。
ドヨドヨした長く厳しい冬があり、その間に溜まっていた感情や欲望そのものだ。
その、感情や欲望が解き放たれるこの瞬間。塩漬けや、発酵をさせ菌の力を借り食材達を延命させ生きる糧としていた物事から、そのままの命をいただくという事に切り替わる一時の季節。
この瞬間に、五味という食の体験を出来る唯一無二の野の恵み「野蕗」。
この一瞬の極々短い間に収穫する1番蕗にのみ宿っている五味。後の蕗ではこれが無い。
緑の草達を踏みながら蕗を刈る。
踏まれた草達から立ち込める香りに、その土地の森の香りは、まさに緑の香りをしている。
蕗をカマで刈り取る度、独特な香りが漂い
あ〜生きてるなぁと本当に感謝の気持ちが込み上げてくる。
食の醍醐味というのは、こういうところから感じ取り、宿るものだと自然から教わる。
蕗の皮を剥き、蕗のアクで指先は黒くなる。
この些細な事ですら尊く愛おしい。
自然の恵みのみで生まれた、1番蕗には五味の中の甘味・酸味・苦味・旨味と僅かな塩味がある。
補うとするならば、僅かしかない塩味。
先人は、この塩を知恵と技術で時間を掛けて作り、今日がある。
この季節のこの一瞬の命は、最低限の手数のみで行うのが道理だと、私はいつも思う。
極力、何もしてはいけない。
①蕗の皮を剥く
②シャキシャキと歯触りを残して湯がく
③一口で口に入る長さに切る
④良い塩梅に塩をふり器に盛り付ける