

〜命をいただく〜エコキッチン
料理人|醸造家
1981年遠野市生まれ。
江戸時代から続く武士の家系に生まれ、100年余り続いてきた民宿「とおの」を4代目として継ぐ。料理の基礎を父から学んだ後、独学で料理を極める。その傍らでどぶろく造りを始め、10年以上の試行錯誤を経て、一般的な「どぶろく」とは異なるエレガントな味わいを生み出すことに成功。
2017年には、スペインの世界的レストラン「ムガリッツ」にてどぶろくを使ったコースが新設されるなど、世界へ向けた道を歩み始めている。また、どぶろくを中心とした発酵食を深める過程で熟成の技術も身につけ、干肉やサラミ、チーズ、酢など、ありとあらゆる発酵食を自ら作り出せるようになった。2011年9月から民宿の隣に「とおの屋 要」をオープンし、ゆったりとした時が流れるレストラン、1日1組限定のオーベルジュを構えている。
写真|奥山 淳志 OKUYAMA Atsushi
8月下旬。
こんなにも暑い夏を遠野で経験した事があっただろうか。雨も降らず水不足。不足どころか、川・溜池・田圃の水は干上がり水が無い稲作となった。
とはいえ、この状況下でも遠野1号は元気にピンとお天道様に向かって稲穂を出してくれた。それを見て元気を貰い励まされ、自然の偉大さ怖さを改めて経験した夏。
朝晩はすっかり秋を感じる気候となり、鈴虫の鳴き声が心地良い。夕暮れ時のひぐらしの鳴き声。あの脳の奥を刺激する鳴き声で、夏が終わるなぁと寂しくも感じる。
項垂れるような暑さ・水不足と、例年に比べて良い想い出とは程遠い夏ではあるが、虫達の鳴き声を聴き、風を体一杯で感じていると、不思議と心も落ち着き来年の夏の出来事が待ち遠しくさえ感じてしまう。
本当に、自然から教わる人の感情というのは不思議なものだ。
お天道様からの恵み・土からの恵みを受けた、色とりどりの夏野菜達。そんな野菜達は、糠漬けにして食すのが1番だ。そして、糠漬けだからこそ1番重要なのが米糠(赤糠)と塩。私は、米糠1に対して塩1の割合で仕込む。
現代人は、形として目に見える物だけに重きを置きがちなように思う。
皆さんは、料理をする時に調味料を吟味しているだろうか?
今回の糠漬けならば、使用する米糠と塩の質をしっかりと吟味する必要がある。
特に米糠は、農薬や化学肥料にまみれた物を使ってはならない。
お米というのは、あらゆる栄養分が白米ではなく外皮である赤糠の部分にあるからだ。いわばお米の質・味と言うのは赤糠にある。白米で食べるよりも玄米で食べた方が体に良いと言われるのは、食物繊維や栄養素が豊富だからだ。だからこそお米の育て方が重要となる。
あらゆる栄養素を外皮に溜め込んでしまうからこそ、農薬や化学的な物を使用した栽培方法の物ではダメという話なのだ。健全なお米から取れる米糠の糠床は腐敗しづらい。塩をしっかりと効かせてあるからなおのこと。
昔の人達は、冷蔵庫もない時代に糠床を大切に育て保管してきた。
糠床の手当て含め、お姑さんはお嫁さんに糠床は絶対に触らせない。
糠床と言うのは乳酸菌達をはじめ、その人の腸内細菌で出来ている生き物と言っても良い。これを他の人に触らせてしまうと糠床の味が変わってしまう。
物事の本質とは、表面上だけではわからない事の方がきっと多いように思う。
和牛・うに・鮑等々高級食材=高級料理。私はいつも講演等、皆さんの前でお話をさせて頂く度にこの話をする。
「皆さんが好きな高級食材達は、何を食べて育っているかご存知ですか?」
牛は穀物を食べ、鮑やうには海藻類を食べ成長する。
何か特別な物を食べているわけではない。
料理というのは食材に優劣を付けたらダメなんです。と。
料理というのは、必ず何かしら人の手を食材に加え、何らかの味をつけて行う。
今日は何を食べようか。何を食べたいか。そう考え食材を選ぶ。
食材の状態を見て調理方法を決め、味付けを決める。
スタートである食材。ゴールである完成した料理。
この間である、過程がもっとも大切であり重要である。もう一度全てを見直し、食・料理に対する頭の作り替えをしてみてほしい。
食の本質・善し悪しというのは物事を考える順序によって、全て決まってくると私は日々思っている。
材料|
ミニトマト・ゴーヤ・茄子・小玉葱
ミント・タイム・レモンバーム・フェンネル
季節野菜はお好みで。
食材によって違いはあるが、今回は1時間半ほど糠床に漬ける。
糠床から取り出して、ついてる糠を全ては取り切らないのがポイント。
①食べやすい大きさに切り
②器に盛り付ける
③最後に野に咲く季節のハーブを散らす