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それをとり捲く永遠と一瞬
随分永い間、旅をしてきました。
帰る処があるのが旅で、そうではないのを放浪というのでしょうが、異なる時間と空間を幾つも移動して、写した風景をお土産に、又いつもの処へ着地するという旅をしていました。
いろいろな時代に、いろいろな場所で、いろいろな人、風景、現象に出会い、触れ、感じ、教えてもらいました。
石ころや砂粒が一つ一つ見えるようになり、暗黒の闇夜はないんだと知り、まったく無音の世界はないんだと感じるようになった頃、例えば岩が石になり、やがて砂になって風に乗って飛んでいってしまっても、無くなる事はなく、形を変えながら循環している水は存在し続け、生と死を繰り返しながら続いていく生命。すべては繋がっている。
こんな、大昔から皆んなが覚えていたことを教えてもらいました。
持ち帰ったものには、私たちが住んでいる時速1670kmで回転する惑星とそれをとり捲く永遠と一瞬が映っているような気がしています。
広川泰士
May, 3-4, 2000 Valle de la Luna, Atacama, Chile
toward south-southwest
Jun. 21-22, 1998 Spitzkoppe, Namibia
toward southwest
Aug. 7-8, 1999 Eld Makroum, Sinai, Egypt
toward south-southwest
Jun.19-20, 1998 Ciudad de Piedra, Bolivia
toward west
Jun. 22-23, 1998 Spitzkoppe, Namibia
toward southwest
Oct. 28-Nov. 2, 1994 Hotokegaura, Aomori. Japan
toward north
Apr.22-23, 2001 Kand Jhang, Sind, Pakistan
toward west-northwest
May. 13-14, 1996 Ih Gazrin Chuluu, Dondo Gobi, Mongolia
toward north-northwest
Oct.10-11, 1991 Arches N. P., Utah, U.S.A.
toward northwest
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「空」という音楽
時間に深く関わる藝術表現、音楽。
これらの写真から聞こえてくるのは全ての音を凝縮した「空」という旋律。
全てが静止した静寂に宿る最も純粋で透明な調べ。
さらに耳を澄ますと、この永遠の静寂の中で、自身の心臓の鼓動が最も信じられる事実として聴こえてくる。
巨大な岩山が、永きにわたる雨風によって削られ、不思議な景観を生み出す。
しかし、それさえもいつの日か崩れ落ち、砂漠の小さな砂粒となる。
大いなる宇宙と私という小さな存在にも共通する法則、生命の誕生、循環、そして終焉。
『TIMESCAPES -無限旋律-』は、今こそ大きな転機を迎えた人間社会に大切な何かを問いかけている。
キュレーター 太田菜穂子
『TIMESCAPES -無限旋律-』2002年 / 青木書店