第四回
4割の環境負荷で暮らすということは?


2024.10.01




現在の環境負荷の4割で暮らす以外に未来の子供たちへのバトンは創れない。
では、我慢することなく、ワクワクドキドキ心豊かに現在の4割の暮らしは可能だろうか? 

無論、現在の延長では我慢を避けることは出来ない、ではどうするのか?
それには思考の足場を変える必要がある。目の前にある制約を排除して解を見出す思考をフォーキャスト思考というが、制約が排除できない場合には我慢を強いる思考でもある。 

一方で制約を肯定して解を導くことをバックキャスト思考という。地球環境問題は排除できない制約なので、これに解を与えるにはバックキャスト・アプローチしかない。

制約の中で豊かであるということは、ちょっとした不自由さや不便さ(喜ばしい制約)を個やコミュニティーの知識、智慧や技で埋めて行くことであり、その結果、愛着感や達成感、充実感が生まれることは明らかになっている。

これを証明したのが、コロナ禍であった。コロナ禍では三密という制約が生まれたが、その中で多くの人が豊かな暮らし方のかたちを見つけ出した結果、環境負荷を3割も減らすことが出来た。そして、「個のデザイン」という新しい価値観が生まれた。

それは身の丈に合った、あるいは個(自分、家族、関係者、小さな企業、小さな行政)の個性を大事にする暮らし方、働き方、学び方である。

エネルギーや資源、食糧・・・我々の生活に不可欠な色々なものが手に入り難くなる未来。
さぁ、コロナ禍ではどのような工夫があったのか、バックキャスト視点で思いを巡らせてほしい。
そしてその工夫の中で生まれた新しい価値観や発見に心を巡らせてほしい。

何かと何かを置き換えるのではなく、制約から生まれた、家族時間、地元再発見、互助感覚、ライフとワークのオーバーラップ・・・
何となく4割の暮らしが現実的なものに見えてきませんか?



石田 秀輝
(合)地球村研究室代表 東北大学名誉教授

2004年㈱INAX(現LIXIL)取締役CTO(最高技術責任者)を経て東北大学教授、2014年より現職、ものつくりとライフスタイルのパラダイムシフトに向けて国内外で多くの発信を続けている。特に、2004年からは、自然のすごさを賢く活かすあたらしいものつくり『ネイチャー・テクノロジー』を提唱、2014年から『心豊かな暮らし方』の上位概念である『間抜けの研究』を奄美群島沖永良部島へ移住、開始した。また、環境戦略・政策を横断的に実践できる社会人の育成や、子供たちの環境教育にも積極的に取り組んでいる。
星槎大学沖永良部島サテライトカレッジ分校長、酔庵塾塾長、ネイチャー・テクノロジー研究会代表、ものつくり生命文明機構副理事長、アースウォッチ・ジャパン副理事長、アメリカセラミクス学会フェローほか