第一回
日本人の思考の原点


2024.05.27




地球環境問題はますます厳しさを増しているが、世界中の人たちが日本人と同じ生活をすれば、地球が2.8個必要(エコロジカル・フットプリント)になる。無論、地球は一つしかない、ということは1/2.8=0.36、現在の36%の環境負荷で暮らさなければならないということになる。そんな暮らしは可能だろうか?

一方、何もしなければ、2030年頃には文明崩壊の引き金に手を掛けることになるという。36%の暮らしは、「待ったなし」なのである。ただし、現在の延長で36%を考える(フォーキャスト思考)なら、明日から車にも乗れず、エアコンも使えず・・・あらゆるものを我慢することになる。人間には「生活価値の不可逆性」という欲の構造があり、一度得た快適性や利便性を容易に手放すことは難しい。無理に手放させるには大きな苦痛が伴う。

さてどうするのか?

一つは思考の足場をフォーキャストからバックキャストに変えることだ。バックキャスト思考とは、制約を肯定する思考である。64%削減という制約を受け入れた上で、我慢することなく、ワクワクドキドキ心豊かに暮らせる社会や暮らしを描く必要がある。

加えて、すでに環境負荷の小さな暮らしをしている現場を訪ね、学ぶことも可能だ。それは開発途上国に出掛けるということではない。一つの地球で暮らしている町が、日本にはある。それは、爪に火をともして暮らしているような風景ではない。笑顔がはじけ、御老人たちも多くが元気に働いている。

この連載では、地球環境問題の本質を知り、36%の環境負荷で暮らすことの可能性を明らかにし、それが可能な日本人の思考の原点を旅してみようと思う。



石田 秀輝
(合)地球村研究室代表 東北大学名誉教授

2004年㈱INAX(現LIXIL)取締役CTO(最高技術責任者)を経て東北大学教授、2014年より現職、ものつくりとライフスタイルのパラダイムシフトに向けて国内外で多くの発信を続けている。特に、2004年からは、自然のすごさを賢く活かすあたらしいものつくり『ネイチャー・テクノロジー』を提唱、2014年から『心豊かな暮らし方』の上位概念である『間抜けの研究』を奄美群島沖永良部島へ移住、開始した。また、環境戦略・政策を横断的に実践できる社会人の育成や、子供たちの環境教育にも積極的に取り組んでいる。
星槎大学沖永良部島サテライトカレッジ分校長、酔庵塾塾長、ネイチャー・テクノロジー研究会代表、ものつくり生命文明機構副理事長、アースウォッチ・ジャパン副理事長、アメリカセラミクス学会フェローほか