未来を創る14の要素は4つのカテゴリーに分類できる。前回までは<自然との関わり>を考えたが、今回からは<自足の暮らし>を紐解いてみよう。
まずは、「何でも手づくりする」そして「工夫を重ねる」だ。衣食住のすべてにわたって、必要なものは買うのではなく、自分の手でつくる、これが暮らしの基本スタイルだった。赤ん坊のおしめも紋付きも、炭やむしろも、果ては柿もぎの道具まで家庭内で手づくりだった。家も集落全員総出でつくり、それが人とのつながり確認し、さらには、その絆を強いものにもした。材料の多くは野山など身近なところで手に入る天然の素材で、人々は材料を熟知し、限られた素材を最大限に活かす、それが、暮らしの中で知恵をしぼり工夫を凝らす習慣を育み、親から子へその知恵は手渡されていった。
だから、沢山の経験と知恵を持った老人たちは尊敬された。僕が住んでいる島でも、老人たちは尊敬され、大事にされる。それは生産と消費が連動しているからだろう。野菜も祭りの準備も、道の普請やちょっとした道具も、お爺やお婆はおしゃべりして、大笑いしながらどんどんとこなしてゆく。都会はどうだろう、生産することなく消費だけの都会では老人の役割はとても希薄だ。
人間の身体のほとんどの細胞は劣化と再生を繰り返すが、脳の神経細胞と心筋細胞だけは生涯再生しない。それどころか、神経細胞は、運動と好奇心という負荷を与えることで新生することもわかってきた。どこまでも歩き、いつも笑顔で色々なことをこなすお爺やお婆は、だからいつまでも元気なのだろう。
今、都会でもDIYや家庭菜園がブームになってきた。身体と頭を動かして、生産と消費の連鎖を創り上げるという意識が、とても大事な時代なのだと思う。
2004年㈱INAX(現LIXIL)取締役CTO(最高技術責任者)を経て東北大学教授、2014年より現職、ものつくりとライフスタイルのパラダイムシフトに向けて国内外で多くの発信を続けている。特に、2004年からは、自然のすごさを賢く活かすあたらしいものつくり『ネイチャー・テクノロジー』を提唱、2014年から『心豊かな暮らし方』の上位概念である『間抜けの研究』を奄美群島沖永良部島へ移住、開始した。また、環境戦略・政策を横断的に実践できる社会人の育成や、子供たちの環境教育にも積極的に取り組んでいる。
星槎大学沖永良部島サテライトカレッジ分校長、酔庵塾塾長、ネイチャー・テクノロジー研究会代表、ものつくり生命文明機構副理事長、アースウォッチ・ジャパン副理事長、アメリカセラミクス学会フェローほか