<自然との関わり>の最後は「水を巧みに利用する」を考えて見よう。蛇口をひねると、勢いよく水が出て来る・・・子供のころ、暑い夏、汗をかいたら蛇口を一杯に開け、口を近づけて、ごくごく飲んでいたものだ。今は死語になっていると思うが、これを「鉄管ビール」と呼んでいた。でも、水道水をそのまま飲める国は、日本を含め世界で9ヶ国しかないし、最先端科学技術を使っても、水をつくることは不可能といってもよい。大量のエネルギーが必要で現実的ではないからだ。自然の恵み(生態系サービスと言う)である水は、太陽が海水を蒸発させ、それが雲になり、山にぶつかり雨を降らせ、山の木々と土がその水をたっぷりと含み、ゆっくり地下に流し、場合によっては何万年もかかって、ミネラルを豊富に含んだ伏流水として地表に出てくる。それを利用させて頂いているだけなのだ。
命あるもの、水がなくては生きては行けぬ。水は家族の命と暮らしを支える、まさに生命線だった。水道のない時代、人々は山からの沢水や湧き水を屋敷に引き込み、井戸を堀り、暮らしていた。食べ物を洗った残り水で、食器を洗い、その残り水で洗濯をし、自然の恵みを大事に丁寧に使った。水を汲み、家に運び込む仕事は重労働だったが、女や子供も担った。人々は水に敏感で、少しも無駄にすることなく沢山の工夫をして大切に使いこなしたのだ。
「水は命」そのものなのだ、そんなことを、今という時代の中であらためて考えて頂ければと思う。
次回からは二つ目のカテゴリー<自足の暮らし>を紐解いてみよう。
2004年㈱INAX(現LIXIL)取締役CTO(最高技術責任者)を経て東北大学教授、2014年より現職、ものつくりとライフスタイルのパラダイムシフトに向けて国内外で多くの発信を続けている。特に、2004年からは、自然のすごさを賢く活かすあたらしいものつくり『ネイチャー・テクノロジー』を提唱、2014年から『心豊かな暮らし方』の上位概念である『間抜けの研究』を奄美群島沖永良部島へ移住、開始した。また、環境戦略・政策を横断的に実践できる社会人の育成や、子供たちの環境教育にも積極的に取り組んでいる。
星槎大学沖永良部島サテライトカレッジ分校長、酔庵塾塾長、ネイチャー・テクノロジー研究会代表、ものつくり生命文明機構副理事長、アースウォッチ・ジャパン副理事長、アメリカセラミクス学会フェローほか