第五回
自然を活かす知恵


2023.09.29




日本が失ってはならない『44の文化要素』のうち、未来を創るのに必要な要素14個は、4つのカテゴリーに分類される。その一つ<自然との関わり>の「自然に寄り添って暮らす」に続いて、「自然を活かす知恵」について考えてみたい。

身近な野山から得られる天然の素材ーー樹木や草、木の実や葉は、暮らしになくてはならない大切な資源だった。何が、どんな効能と薬効をもつか。人々は手に入るさまざまな素材を知り尽くし、それらを多彩に活かす知恵と技を身につけていた。そして、手間暇をかけ、丁寧に素材と向き合い、無駄なく生活に役立てた。よって、暮らしはすべて自然の素材でできていた。人が他の生き物と同様、自然の循環の中で生きる(持続可能な暮らし)とはそういうことなのだろう。

洗濯にはサイカチの実、家から蚊や虫を追い出すにはヨモギや杉の葉を燻して、赤切れにはサイハイランの根っこ、汗疹にはモモの葉、ゲンノショウコは下痢や腹痛に・・・。綿の布団より暖かかった藁(イネの根本の柔らかい部分)の布団、ゼンマイのふわふわした綿を使った敷布団、エネルギーは色々な木で作った炭・・・。

 だからこそ、長い経験の中でたくさんの知識と知恵をもった老人は尊敬された。残念ながら、今の時代、そんなことはすっかり忘れ、台所には、石油からつくられた色々な種類の洗剤が所狭しと並んでいる。蚊、蟻、蜂用の専用殺虫剤も・・・。五感と身体性を忘れた結果だ。

 自然に生かされていることを知り、自然を活かすということは、一つの地球で生きるための第一歩だ。昔に戻るのではなく、自然から学ぶということを、何か一つでも良い、はじめてみてはいかがだろう?

 

 

 

 



石田 秀輝
(合)地球村研究室代表 東北大学名誉教授

2004年㈱INAX(現LIXIL)取締役CTO(最高技術責任者)を経て東北大学教授、2014年より現職、ものつくりとライフスタイルのパラダイムシフトに向けて国内外で多くの発信を続けている。特に、2004年からは、自然のすごさを賢く活かすあたらしいものつくり『ネイチャー・テクノロジー』を提唱、2014年から『心豊かな暮らし方』の上位概念である『間抜けの研究』を奄美群島沖永良部島へ移住、開始した。また、環境戦略・政策を横断的に実践できる社会人の育成や、子供たちの環境教育にも積極的に取り組んでいる。
星槎大学沖永良部島サテライトカレッジ分校長、酔庵塾塾長、ネイチャー・テクノロジー研究会代表、ものつくり生命文明機構副理事長、アースウォッチ・ジャパン副理事長、アメリカセラミクス学会フェローほか