食材ラボ富山県の海の幸、山の幸

©︎ MUKAI Takashi

第四回『ブリ』



富山の冬の味覚といえば、やはりブリです。「ひみ寒ぶり宣言」がニュースになると、本格的な冬の訪れを実感すると同時に、魚がいよいよおいしくなる季節の到来に心が弾みます。

「ひみ寒ぶり宣言」とは、氷見魚ブランド対策協議会がブリの大きさや数量、形などの質を見て、本格的な寒ブリシーズンがきたことを宣言するものです。この宣言が出されると、選ばれた「ひみ寒ぶり」は1尾ずつ専用の青い箱に詰められ、証明書付きで出荷されます。ブランドとしての信頼を守るため、厳しい基準と丁寧な扱いが徹底されているのです。

ブリは出世魚として知られていますが、富山では「ツバイソ→コズクラ→フクラギ→ガンド→ブリ」と成長とともに呼び名が変わります。中でもフクラギは脂がさっぱりして旬の時期も長く、家庭の食卓では最も身近な存在です。刺身で味わうことが多く、富山の人々にとって欠かせない定番の魚です。







一方で、寒ブリは脂ののりと旨みが格別です。富山湾は漁場が近く、鮮度の良さが際立つため、身には透明感があり、しっとりとした甘みがあります。調理法はなるべくシンプルに。照り焼きよりも塩焼きで風味を楽しんだり、たっぷりの大根おろしを添えた刺身で脂の旨みをひき立てるのがおすすめです。アラはぶり大根や味噌汁にして、冬の食卓を温めてくれます。

冬の富山湾に雷が轟くと、漁師たちは「ぶり起こし」と呼ばれる季節の嵐に気を引き締めます。雷に驚いた回遊魚のブリが天然の生簀と言われる富山湾に集まり、大漁の兆しとなるからです。自然のリズムを読み、海とともに生きる漁師の感覚が息づいています。

富山の冬は厳しくも豊かです。人々は自然の恵みに感謝し、旬を逃さず、丁寧に料理し、家族や仲間と分かち合ってきました。寒ブリを中心とした冬の食文化は、単なるご馳走ではなく、自然と共に生きる富山の知恵と誇りの象徴なのです。

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