2009年、名古屋大学大学院環境学研究科修了。博士(地理学)。名古屋大学大学院(研究員)、法政大学文学部(助教)、愛知学院大学教養部(講師・准教授)等を経て、2025年よりフリーランスの研究者となる。専門は自然地理学、特に地生態学。主な著書に『里山の「人の気配」を追って』(花伝社)、『はじめて地理学』(ベレ出版)など。
『ビオトープ知多』は生物多様性を保全・推進するよう、敷地内の異なる機能を持つ複数のエリアが互いに補完し合う、絶妙なハーモニーを生み出す設計がなされています。
中でも知多半島の地理学や地生態学の観点から、『ビオトープ知多』の湿地造成への助言をされていらっしゃる富田先生にお話しを伺いました。
板山高根湿地のシラタマホシクサの群生(撮影|富田啓介)
知多は細長い半島で、平地は狭く、緩やかな丘陵からなっています。大きな河川がなく、古来より水の確保に湧水湿地やため池からの用水を賄うことで、醸造業などが発展してきました。知多の中心都市として栄えてきた半田市ですが、近年は土地開発により湿地が激減し、このエリアに生育する絶滅危惧種を含む食虫植物や、東海地方固有や準固有の湿地植物が絶滅の危機に瀕しています。環境省はこの状況を受け、「尾張丘陵・知多半島地域湧水湿地群」を「重要湿地 No. 301」に選定しています。
現在、『ビオトープ知多』の湿地エリアで導入を検討しているのは、「ミミカキグサ」「トウカイコモウセンゴケ」、そして東海地方固有種で、環境省では絶滅危惧II類に分類されている「シラタマホシクサ」などです。「シラタマホシクサ」はその名の通り、小さな星の形のかわいい花を咲かせます。
湿地というと、なんとなくジメジメしたネガティブな印象を持たれる方もいらっしゃるようですが、私にとっては見る人の心を和ませる「水辺」と呼ばれる美しい場所。そこでは植物が育ち、昆虫や鳥たちが憩う自然界の命の循環が育まれているのです。
絶滅の危機に瀕した植物を専門研究機関である植物園などが管理・保護するという考えもありますが、愛知県内では、行政がすでに保全地域に定め、普段は一般非公開の板山高根湿地(阿久比町)などの湿地植物を一時避難場所として『ビオトープ知多』に導入。モニタリングしながらその生育を見守ることは、里山や湿地への理解を深めるのみならず、その保全に寄与する大きな一歩になると期待を寄せています。
環境省|重要湿地ページ
環境省|No.301 尾張丘陵・知多半島地域湧水湿地群