第四回
脳の突然変異が心のビッグバンを生む!!


2025.11.26


我々(ホモ・サピエンス)が発生したのはおよそ20万年前。そして言葉を操り、未来を考えることが出来るようになったのは7万年ほど前だ。例えば「犬が私の友達を噛んだ」「私の友達が犬を噛んだ」という2つの文章は、全く同じ文法、同じ単語で構成されているが、一つ目の文章の「不運」と二つ目の文章の「面白さ」を区別するには、犬と友達の関係を脳内で統合し、想像することを可能にする「メンタル統合」があるからだ。さらに、文章が再帰構造になっているものの理解にも、メンタル統合能力が必須である。

7万年前にメンタル統合と再帰言語を取得したことで、本質的に行動が異なる新たな種が誕生した。真に現代的な行動をとる最初のホモサピエンスともいえる。それはどんな計画でも頭の中でシミュレートする前例のない能力と、それらを仲間に伝達するという同じく全く前例のない能力を備えた人間として、一気に支配的な種になる準備が整ったことになる(心のビッグバン)。

洞窟壁画、住居の建設、副葬品を伴う埋葬、骨製の針などに見られる道具の専門家などの「文化的創造性」は、7万年前よりも以前には発見されていない。

ただ、メンタル統合能力の発達には非常に時間がかかる。それを可能にしたのが、7万年ほど前に起こった脳の発達(前頭前野)を遅らせるという突然変異だったらしい。脳の発達が遅れることによって、ヒトは未来を考えることが出来るようになった。

さらに、脳の構造が如何にメンタル統合に適していたとしても、誰かが子供に再帰言語を教えられなければ、子供はそれを習得することはない。この障壁をクリアするには、脳の突然変異を持つ2人以上の子供が、互いに会話しながら長い時間を過ごし、再帰言語を発明することが必要だ。

なぜこのような突然変異が起こったのかは定かではないが、7万5000年前に起こったトバ火山(インドネシア)の大噴火により、生物学的には絶滅寸前まで追い込まれ、世界の総人口が1000人近くまで激減したことが一因ではないかと思っている。

言語を通して未来を想像できるようになったヒトはその後どう振舞ったのか、あらためて進歩とは豊かさとは何か、を考えてみたい・・・

©︎ YAMADA Yuki



石田 秀輝
(合)地球村研究室代表 東北大学名誉教授

2004年㈱INAX(現LIXIL)取締役CTO(最高技術責任者)を経て東北大学教授、2014年より現職、ものつくりとライフスタイルのパラダイムシフトに向けて国内外で多くの発信を続けている。特に、2004年からは、自然のすごさを賢く活かすあたらしいものつくり『ネイチャー・テクノロジー』を提唱、2014年から『心豊かな暮らし方』の上位概念である『間抜けの研究』を奄美群島沖永良部島へ移住、開始した。また、環境戦略・政策を横断的に実践できる社会人の育成や、子供たちの環境教育にも積極的に取り組んでいる。
星槎大学沖永良部島サテライトカレッジ分校長、酔庵塾塾長、ネイチャー・テクノロジー研究会代表、ものつくり生命文明機構副理事長、アースウォッチ・ジャパン副理事長、アメリカセラミクス学会フェローほか